銭湯・サウナマッピング 2026年1月

銭湯不動産学

収容人数ヒートマップで読み解く東京23区

「銭湯の近くに住みたい」 そう思ったことから、この研究は始まった。

銭湯の近くに住みたい

冬の夜、銭湯の暖簾をくぐる。カランコロンと下駄箱の音。番台のおばちゃんに「いらっしゃい」と言われて520円を渡す。脱衣所には常連のおじいちゃん。目が合うと軽く会釈。広い湯船に浸かれば、壁には富士山のペンキ絵。湯気の向こうに、知らないおじさんの鼻歌が聞こえる。

銭湯から帰る途中、濡れた髪に夜風を感じながらふと思った。
「ここの近くに住みたいな」と。

銭湯は風呂じゃない。都市の毛細血管だ。常連さんとの無言の挨拶、脱衣所で交わす天気の話、帰り道に寄る角打ち。家から徒歩5分の銭湯がある生活は、東京でも「ご近所」が存在する生活だ。

スマホを持ち込めない空間で、見ず知らずの人と同じ湯船に浸かる。そこには不思議な連帯感がある。都会の孤独を、520円で溶かしてくれる場所。それが銭湯だ。

そんな生活ができる場所を探すため、東京23区の入浴施設660軒をすべてマッピングしてみた。見えてきたのは、不動産サイトには載っていない「街の体温」だった。

まずは地図を触ってみよう

クリックして拡大、ドラッグして移動。あなたの街には銭湯がいくつある?

マップを読み込み中...

凡例

入浴施設

円の大きさ = 収容人数

データについて:東京23区のデータは完全版(660軒)。関東圏(神奈川・埼玉・千葉・群馬・栃木・茨城)のデータは現在整備中です。

このプロジェクトのデータはGitHubで公開予定です。データの誤りはこちらからご報告ください。

東京23区の入浴施設マップ

東京23区の入浴施設 660軒。円の大きさ=収容人数

上部と下部のインタラクティブマップで自由に探索できます

収容人数が街を語る

「銭湯が多い」だけでは不十分。どれだけの人を受け入れられるかが重要だ。収容人数100人超の大型銭湯は、かつて工場労働者が多かった大田区・品川区に集中。一方、住宅街には30-50人規模の「町の銭湯」が点在する。

円の大きさ = 収容人数

〜50人

〜100人

〜200人

300人〜

技術的な補足

収容人数はGoogle Places APIのレビュー数、写真の脱衣所サイズ、公式サイト情報などから推定。精度は±20%程度と考えてください。

街の性格を映し出す

同じ「銭湯」でも、街によって顔が全く違う。

高円寺の「小杉湯」は昭和8年創業。宮造りの唐破風が残る登録有形文化財だ。週末は若者で混み合い、サブカルの街にふさわしい独特のカルチャーがある。隣には「小杉湯となり」という銭湯併設のコワーキングまで生まれた。

一方、武蔵小山の「東京浴場」。洗練された目黒区の住宅街にひっそり佇む。常連は近所の会社員や若いファミリー。おしゃれすぎず、かといって古臭くもない。「普通の銭湯」としての完成度が高い。

銭湯は街の「体温」を測るリトマス紙。どんな人が住み、どんな生活リズムがあるのか。銭湯に行けばわかる。

小杉湯と東京浴場の位置

赤いマーカー:小杉湯(高円寺)と東京浴場(武蔵小山)。同じ東京でも全く違う銭湯文化

インタラクティブマップで自由に探索できます

小杉湯

小杉湯(高円寺)

昭和8年創業・登録有形文化財

東京浴場

東京浴場(武蔵小山)

住宅街の町銭湯

山手線という境界

山手線は単なる鉄道路線ではない。東京の「表」と「裏」を分ける見えない壁だ。

都心6区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・文京)と外側17区。同じ23区なのに、銭湯の姿が全く違う。

東京23区の入浴施設マップ(山手線表示)

緑のライン=山手線。内側と外側で銭湯の性格が変わる

都心6区 vs 外側17区

都心6区 外側17区 比較
施設数 178軒 482軒 2.7倍
面積密度 1.93軒/km² 0.91軒/km² 都心2.1倍
平均収容人数 160人 112人 都心43%大
スーパー銭湯比率 71% 29%
銭湯比率 29% 71%

密度で見る

点の分布から、熱量を可視化してみる。赤いほど銭湯密度が高い。

2つの「赤い帯」が浮かび上がる。ひとつは隅田川沿いの下町ライン(台東区→墨田区→足立区)。もうひとつは京浜工業地帯ライン(品川区→大田区)。この2本のラインが、東京の銭湯文化を支える背骨だ。

興味深いのは、この「赤い帯」が鉄道沿線とは異なる論理で走っていること。銭湯は通勤経路ではなく、「住む場所」の歴史を反映している。

桜田門エリアの銭湯密度

桜田門エリア

高輪エリアの銭湯密度

高輪エリア

芝公園エリアの銭湯密度

芝公園エリア

羽田エリアの銭湯密度

羽田エリア

4エリアの銭湯密度比較。赤いほど銭湯が集中

2つの「湯」と1つの「サ」

「銭湯に行く」と言っても、行き先は3つに分かれる。

カテゴリ 価格帯 施設数 特徴
銭湯 520円 390軒 番台、石鹸持参、地元密着
スーパー銭湯 1,000-2,500円 191軒 露天風呂、岩盤浴、レストラン
サウナ専門 2,000-4,000円 79軒 ロウリュ、水風呂、外気浴

銭湯ビジネスの詳細分析は「銭湯経営の現在地」で解説しています

東京23区の入浴施設カテゴリ別マップ

黒=銭湯、青=スーパー銭湯、オレンジ=サウナ専門

西高東低のサウナ経済学

地図をじっと見ていると、東西で色が違うことに気づく。

渋谷・目黒・世田谷にはオレンジ(サウナ専門)が密集。1回3,000円超でも通う客がいる。一方、足立区・江戸川区では青(スーパー銭湯)が優勢。家族4人で行っても5,000円で済む施設が求められている。

仮説

「サウナブーム」は全東京に広がったわけではない。可処分所得と相関する「サウナライン」が存在し、西側は「体験にお金を払う」層、東側は「家族で楽しむ」層という棲み分けがある。銭湯の分布は、東京の経済格差を静かに映し出している。

東京23区西側エリアのサウナ分布

西側エリア:サウナ専門(オレンジ)が多い。インタラクティブマップで西側エリアを拡大して確認できます

エリア別分析

地域ごとの銭湯文化を見てみよう

丸の内に銭湯はない

都心の空白地帯

千代田区の銭湯密度は23区で最下位クラス。この街には「住民」がいない。オフィスビルと官庁が立ち並ぶ昼間人口の街。夜になれば人は消える。

3

千代田区

7

中央区

6

港区

下町という「銭湯共和国」

台東区・墨田区・荒川区

この三角地帯は、東京で最も銭湯密度が高い「聖地」だ。戦前からの密集住宅地で、銭湯は「毎日行く場所」として発展し、地域の社交場になった。

14

台東区

18

墨田区

12

荒川区

労働者の街、大きな湯船

大田区・品川区

収容人数100人超の大型銭湯が今も健在。京浜工業地帯で働く労働者たちは、仕事終わりに銭湯で汗を流した。工場は去っても、大きな湯船は残った。

35

大田区

21

品川区

52

平均収容

ファミリー銭湯の聖地

足立区・葛飾区・江戸川区

スーパー銭湯が多い。駐車場完備、露天風呂あり、キッズスペースあり。家族4人で土日に行っても1万円でお釣りがくる。「家族で楽しむ」文化がある。

28

足立区

22

葛飾区

18

江戸川区

銭湯リバイバル

面白いことが起きている。銭湯は「消えゆくインフラ」だったはずなのに、若い世代が銭湯を再発見し始めた

Instagramで「#銭湯」を検索すると、20代・30代の投稿があふれている。レトロなタイル絵の前で撮った写真、風呂上がりのフルーツ牛乳、サウナ後の「ととのい」報告。かつて「おじいちゃんの場所」だった銭湯が、「エモい」「チルい」体験として再評価されている。

若者が銭湯に惹かれる理由

  • デジタルデトックス:スマホを持ち込めない唯一の場所
  • 昭和レトロブーム:富士山のタイル絵、木の下駄箱、番台文化
  • サウナブーム:「ととのう」文化の入門として
  • コスパ:520円で得られる幸福度が異常に高い
  • 孤独の解消:一人暮らしの狭い風呂より、広い湯船で足を伸ばしたい

小杉湯(高円寺)は典型的な成功例だ。築90年の建物を大切に維持しながら、SNSで若者にアプローチ。朝風呂や深夜営業を導入し、働く若者のライフスタイルに合わせた。今では週末に行列ができるほどの人気店になった。

「改良湯」(渋谷区)は大胆にリノベーションし、デザイナーズ銭湯に生まれ変わった。黒を基調としたモダンな内装で、「銭湯っぽくない」と話題に。でも料金は520円のまま。若いクリエイターやIT系の常連が増えた。

データでも裏付けがある。東京都の統計によると、銭湯の数は減り続けているが、一軒あたりの平均利用者数は2013年を底に微増傾向にある。残った銭湯に人が集中している証拠だ。

2,687

1968年ピーク時の銭湯数

~450

2025年現在の銭湯数

+21%

一軒あたり利用者数の増加
(2013→2019)

銭湯の総数は減っても、「銭湯文化」は消えていない。むしろ、残った銭湯は地域の核として存在感を増している。週末の銭湯には、常連のおじいちゃんと、タトゥーを入れた若いカップルが同じ湯船に浸かっている。そんな不思議な光景が、今の東京銭湯のリアルだ。

銭湯不動産学の結論

すべてのデータを重ねると、「銭湯天国」エリアが浮かび上がる。徒歩10分以内に3軒以上の銭湯がある地域だ。

緑のオーバーレイが濃い場所を見てほしい。台東区・荒川区の境界大田区の蒲田周辺足立区の北千住〜綾瀬ライン。ここに住めば、「今日はどこ行こうか」と悩める贅沢な生活が手に入る。

月曜は「改良湯」、水曜は「寿湯」、金曜は「萩の湯」。毎日違う湯船、違う常連、違う帰り道。これが「銭湯のある生活」の醍醐味だ

銭湯アクセシビリティスコア

Sᵢ = 0.4 × (Nᵢ / Nₘₐₓ) + 0.3 × (Cᵢ / Cₘₐₓ) + 0.3 × max(0, 1 - dᵢ/2000)

  • Nᵢ = 半径800m以内の施設数(選択肢の多さ)
  • Cᵢ = 同範囲内の総収容人数(混雑回避力)
  • dᵢ = 最寄り施設までの距離(日常利用のしやすさ)
92

新宿区 歌舞伎町一丁目

施設数 (Nᵢ)40%
15
015 / 1616

寄与: 37.5

総収容人数 (Cᵢ)30%
1,850
01850 / 21002,100

寄与: 26.4

最寄り距離 (dᵢ)30%
128m
0m128m2000m

寄与: 28.1

スコア構成

38
26
28
施設数
収容人数
近接性

S = 0.4 × (15/16) + 0.3 × (1850/2100) + 0.3 × max(0, 1 - 128/2000)

= 37.5 + 26.4 + 28.1 = 92

銭湯アクセススコア TOP 10

順位 町丁目 スコア 800m以内 最寄り
1 歌舞伎町一丁目新宿区 96 15軒 128m
2 西新宿一丁目新宿区 89 13軒 156m
3 新宿三丁目新宿区 87 12軒 201m
4 上野二丁目台東区 85 11軒 187m
5 蒲田五丁目大田区 82 10軒 145m
6 渋谷一丁目渋谷区 79 9軒 234m
7 池袋二丁目豊島区 77 9軒 289m
8 北千住一丁目足立区 75 8軒 178m
9 錦糸一丁目墨田区 73 8軒 212m
10 高円寺南三丁目杉並区 71 7軒 156m

※スコアは100点満点。800m以内の施設数、総収容人数、最寄り距離から算出

…とはいえ、歌舞伎町に住みたいかと言われると微妙。スコア60-80くらいの「程よく銭湯がある街」が実は狙い目かもしれない。

銭湯砂漠 WORST 5

順位 町丁目 スコア 最寄り施設 距離
1 海の森一丁目江東区 0 4,500m+
2 中央防波堤江東区 0 5,200m+
3 羽田空港大田区 2 3,800m
4 丸の内一丁目千代田区 8 1,890m
5 永田町一丁目千代田区 11 1,650m

埋立地・空港・オフィス街が上位を占める。「住む場所」ではないことの証

…とはいえ、海の森に住んでいる人はいない。中央防波堤で暮らす人もいない。羽田空港で寝泊まりしているのは、せいぜい終電を逃したサラリーマンくらいだ。

丸の内や永田町には確かに「働いている人」はいる。霞ヶ関の官僚は深夜まで残業して、近くに銭湯がないことを嘆いているかもしれない。でも彼らも「住んで」はいない。

では、実際に人が住んでいる場所で、銭湯アクセスが最も悪いのはどこだろう?埋立地・空港・純オフィス街を除外して、もう一度ランキングを見てみよう。

住宅地の銭湯砂漠 WORST 5

順位 町丁目 スコア 最寄り施設 距離
1 南青山七丁目港区 15 南青山 清水湯 1,420m
2 上用賀六丁目世田谷区 17 栄湯 1,350m
3 白金台五丁目港区 19 アクアガーデン三越湯 1,250m
4 松濤二丁目渋谷区 21 大黒湯 1,180m
5 田園調布三丁目大田区 22 調布弁天湯 1,150m

高級住宅地が並ぶ。バスルームが2つある家に住む人は、銭湯に行かない

インタラクティブマップ

このマップは有料APIで動いています。気に入ったら ☕ おふせで応援 してもらえると続けられます

右のカードをスクロールすると、地図が自動で動きます。施設をクリックすると詳細が見れます。
💡 ヒートマップ表示時:ズームレベルで密度の見え方が変わります

マップを読み込み中...

凡例

入浴施設

円の大きさ = 収容人数

データについて:東京23区のデータは完全版(660軒)。関東圏(神奈川・埼玉・千葉・群馬・栃木・茨城)のデータは現在整備中です。

このプロジェクトのデータはGitHubで公開予定です。データの誤りはこちらからご報告ください。

技術的な詳細

データ収集

  • ・Google Places API で施設情報を取得
  • ・検索クエリ: "銭湯", "スーパー銭湯", "サウナ"
  • ・対象エリア: 東京23区
  • ・取得期間: 2024年12月

カテゴリ分類

  • ・サウナ: 名前に「サウナ」を含み「湯」を含まない
  • ・スーパー銭湯: 名前に「スパ」「温泉」「健康」等を含む
  • ・銭湯: 上記以外
  • ・手動で一部修正

収容人数推定

  • ・公式サイト情報(ある場合)
  • ・脱衣所の写真からロッカー数を推定
  • ・レビュー内容から推定
  • ・推定精度: ±20%程度

使用技術

  • ・フレームワーク: Astro + React
  • ・地図: Mapbox GL JS
  • ・スタイリング: Tailwind CSS
  • ・データ形式: GeoJSON

GeoJSON データ構造

{
  "type": "Feature",
  "properties": {
    "name": "東京浴場",
    "ward": "品川区",
    "capacity": 45,
    "category": "sento"
  },
  "geometry": {
    "type": "Point",
    "coordinates": [139.7051, 35.6074]
  }
}

銭湯が教えてくれること

銭湯の分布は、不動産サイトには載っていない「街の履歴書」だ。

銭湯が密集している → 戦前からの住宅地。内風呂がない時代から人が住み続けている。コミュニティが残っている可能性が高い。
大きな銭湯がある → かつて工場労働者が多かった街。今も庶民的な空気が残る。
銭湯がない → 新しく開発された街か、最初から富裕層向けに作られた街。「ご近所」は薄い。

データで検証する

エリア分類 代表区 密度 銭湯比率 平均収容
下町(戦前住宅地) 台東・墨田・荒川 2.26/km² 75% 122人
工業地帯 大田・品川 0.95/km² 77% 108人
都心オフィス街 千代田・中央・港 2.32/km² 25% 161人
西側(高所得層) 渋谷・目黒・世田谷 1.56/km² 48% 120人
東側(ファミリー層) 足立・葛飾・江戸川 0.59/km² 81% 104人

75%

下町の銭湯比率

vs 都心25%

2.6倍

西側のスーパー銭湯比率

62% vs 東側23%

3.8倍

下町 vs 東部郊外の密度差

2.26 vs 0.59/km²

※銭湯比率 = 伝統的銭湯の割合(スーパー銭湯・サウナ施設を除く)。密度 = 区面積あたりの施設数

引っ越しを考えている人は、まずその街の銭湯に行ってみてほしい。番台のおばちゃんの表情、常連客の年齢層、脱衣所の会話。それが「住んだら感じる空気」そのものだ。

銭湯は消えつつあるインフラだ。でも、まだ660軒が東京にある。その一軒一軒が、街の記憶を湯気とともに守り続けている。

データソース

※ 密度・比率などの統計値は上記データを基に独自に算出。データ取得日: 2026年1月

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